1.はじめに

 

在日韓国・朝鮮人の方で、ご家族の相続について不安やお悩みを抱えている方は決して少なくないと思います。現在、日本に定住している在日韓国・朝鮮人は約33万人と言われていますが、本記事では、主に在日韓国人の方の相続、韓国の相続制度についての知識をまとめていきたいと思います。

 

 1-1.在日韓国人の相続で適用される法律は韓国法

在日韓国人が日本で死亡した場合、原則として韓国の法律を適用し相続手続きを進めていくことになります。

「どの国の法律を適用するか」という問題を、専門用語で準拠法の問題と言いますが、準拠法については、法の適用に関する通則法第36条に「相続は被相続人の本国法による」と定められており、韓国籍の方は、たとえ死亡時に日本に住所があったとしても原則として韓国の法律が適用されることとなります。

 

 1-2.韓国法の適用除外

上述のように、在日韓国人の死亡時には韓国法によって相続が開始されますが、その適用を受けない例外的なケースもあります。

(1)遺言によって相続準拠法を定めた場合

韓国国際私法第49条第1項では、「相続は死亡当時の被相続人の本国法による」と規定していますが、一方で、遺言による準拠法の指定を認めており、遺言者がその意思を明示的に記載すれば、相続の準拠法を日本法に変更することが可能です。(韓国国際私法第49条第

2項)

例えば、日本で暮らす在日韓国人が、遺言で「私の相続は日本法を準拠法とします。」と記載すれば、韓国法ではこの指定は有効なものと解されますので、相続準拠法は日本法ということになります。ただし、この指定は被相続人が死亡時まで日本に住所を維持した場合に限ります。

(2)韓国と日本の二重国籍の場合

法の適用に関する通則法第38条では、「(略)ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする。」と定めており、被相続人が死亡時に韓国と日本の二つの国籍を有していた場合には、日本法を本国法とすることが可能です。

 

2.韓国の相続制度

 

 2-1.法定相続人と相続順位

まず、韓国籍の方が亡くなられた場合の相続人とその順位について見ていきます。

韓国民法では、配偶者・直系卑属・直系尊属・兄弟姉妹の他に4親等内の傍系血族も法定相続人になるとされています。(韓国民法1000条第1項)

【第1順位 : 被相続人の直系卑属】

子、孫、曾孫等

子が全員相続放棄した場合には、孫が直系卑属として相続人となり、孫が数人いる場合には、孫の共同相続となります。

【第2順位 : 被相続人の直系尊属】

父母、祖父母等

直系卑属がいない場合には、直系尊属が相続人となります。

【第3順位 : 被相続人の兄弟姉妹】

日本民法と異なり、兄弟姉妹は、被相続人に直系卑属・直系尊属がいないだけでなく、配偶者もいない場合にのみ相続人となります。兄弟姉妹は、自然血族や法定血族、父系・母系を問わず、また、兄弟姉妹の直系卑属にも代襲相続が認められています。

【第4順位 : 被相続人の4親等内の傍系血族】

被相続人に直系卑属・直系尊属・兄弟姉妹がいないだけでなく、配偶者もいない場合にのみ、4親等内の傍系血族が相続人となります。3親等の傍系血族としては、おじ・おば・甥・姪が該当し、4親等の傍系血族としては、いとこ、祖父母の兄弟姉妹、兄弟姉妹の孫が該当します。

なお、配偶者は常に第1順位の相続人となり、直系卑属や直系尊属がいる場合にはそれらの者と同順位で共同相続人となります。

 

 2-2.代襲相続

代襲相続とは、被相続人の子や兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡等により相続権を失っていた場合に、その者の子がその者に代わって相続をする制度です。例えば、父親(被相続人)よりも先に息子(本来の相続人)が亡くなってしまっていたときに、息子の子(父親から見て孫)が父親を相続するような場合です。

韓国民法においても代襲相続が認められており、直系卑属や兄弟姉妹が相続開始以前に死亡したり相続欠格となった場合には、それらの者の直系卑属は代襲相続人となることができます(韓国民法1001条)が、直系尊属と4親等内の傍系血族にはこの代襲相続は認められていません。

なお、韓国民法では配偶者も代襲相続人となり、この点が日本法と大きく異なります。

相続開始以前に死亡したり相続欠格となった者の配偶者は、その者の直系卑属と同順位で共同相続人となり、同順位の直系卑属がいない場合には単独相続人となります。(韓国民法1003条第2項)

 

 2-3.法定相続分

韓国民法では、同順位の相続人が複数人いる場合には、その相続分はすべて均等とすることとしており(韓国民法1009条第1項)、配偶者についてのみ5割を加算することとしています(同条2項)。例えば、夫が死亡し妻と子で相続する場合、日本法では配偶者は総相続分の2分の1は確保されますが、韓国法の場合、子が多いほど配偶者の相続分は減少することになります。

 

 2-4.遺留分

遺留分とは、一定の範囲内の法定相続人に保障された相続分のことです。例えば、被相続人が遺言で相続財産のすべてを第三者に遺贈してしまうと、残された家族が生活に困ってしまいます。このようなとき、被相続人の配偶者や子等には遺留分という最低限の取得分が保障されており、一定の相続財産を取り戻すことができます。

日本民法とは違い、韓国民法では、被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属の他に、被相続人の兄弟姉妹にも遺留分を認めています。遺留分の割合は、直系卑属と配偶者が法定相続分の2分の1、直系尊属と兄弟姉妹が法定相続分の3分の1となっています。

 

3. 在日韓国人の相続における留意点

 

 3-1.遺言の作成と遺産分割協議

遺言を残しておくことは、在日韓国人の方の相続を円滑に執行するために極めて重要です。在日韓国人の方が亡くなられた場合、通常韓国の相続法が適用されますが、遺言によって日本法を指定することが可能です。少なくとも日本国内の財産については、「日本法を適用する」とすることで、日本法によって相続手続きを進めることが可能になります。

仮に遺言が存在しない場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要がありますが、法定相続人は誰なのか、実際に協議は可能なのか、実務においては困難な問題に直面することも少なくありません。在日韓国・朝鮮人の方は、行政書士や司法書士等の専門家に相談の上、公正証書遺言を作成されておくことが先々のことを考えた場合に有用であると考えます。

 

 3-2.相続放棄と方式

相続放棄は、被相続人の一切の財産(プラス財産とマイナス財産の全部)を相続せずに放棄してしまう手続き・制度です。主に、被相続人に負債があるような場合に利用されます。

韓国籍の方が相続放棄をされる場合、日本・韓国どちらの家庭裁判所で手続きを行うかが問題になりますが、結論から申し上げれば、日本国内の相続財産については日本の家庭裁判所に、韓国内の相続財産については韓国の家庭裁判所に、申告を行う必要があります。日韓両国には他方における相続放棄の効力を自国において認める制度がないため、双方の家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

 

 3-3.相続登記

主に不動産等について、その名義を被相続人から相続人に書き換える際には登記の申請が必要です。韓国籍の方も日本国内にある不動産を相続した場合には、日本人と同じく相続の登記をする必要があります。

韓国籍の方の相続登記については、

(1)被相続人の出生から死亡までのすべての除籍謄本

(2)被相続人の基本証明書及び家族関係証明書

等が必要であるため、韓国本国から取り寄せなければなりません。これらは、駐日韓国大使館・領事館で取得できますが、韓国の本籍(「登録基準地」)と言います)をご存じない方も多く、戸籍資料の収集が困難な場合もあります。また、当然すべてハングルで記載されているため、日本語訳文の添付も必要です。

 

 3-4.その他の手続き

ハングルで記載された戸籍類の日本語への翻訳作業の他、どうしても書類が揃えることができない場合等の上申書の作成など、国籍の違いから生じる特有の面倒な手続きが発生します。

 

4.まとめ

 

韓国の相続制度は、基本的には日本と類似していますが、相違点も存在しています。理論上は簡単に思えても、戸籍の収集や翻訳等煩雑な作業も多く、実務上は多くの手間がかかります。実際の相続手続きに際しては、韓国の相続制度をひととおり知っておかれた上で、必要な点について、税理士、司法書士、行政書士等の韓国法務に詳しい専門家に早めに相談されることをおすすめします。

 

投稿者: 大村名剛 (李名剛)

1983年、東京生まれの在日韓国人3世。特定行政書士・申請取次行政書士。 就労ビザなどの企業の外国人雇用サポートや外国企業の対日投資、 日系企業の海外進出、国際結婚、帰化や永住手続き等を得意分野とする。 趣味は旅行、犬の散歩。好きなお酒は日本酒。