超高齢化社会となり、判断能力を補う制度として後見の制度が注目を浴びています。この後見制度は、任意後見と法定後見の2種類があり、違いもあります。本記事では任意後見と法定後見の違いについてみていきたいと思います。

 

1.任意後見と法定後見の違いとは

 

任意後見と法定後見の違いを一言で言ってしまうと、任意後見は、将来後見人となる人を自分で選んでおくという制度であるのに対して、法定後見は、判断能力が低下してしまったあとに裁判所が選任するという点が違いです。

 

つまり、

・自分で後見人を選ぶ=任意後見人 

・裁判所が後見人選ぶ=法定後見(人)

ということになります。

なお、任意後見人と法定後見で出来ることの違い(権限)は、次の項目で述べたいと思います。

超高齢化社会により、人生100年時代と言われ、体はいつまでも元気という時代になってきました。しかし、心、脳については、まだ医療の進歩は必ずしも十分ではなく、認知症をはじめとする判断能力の低下については、完全に止めることはできません。

こういった時代では、ご自身が生涯をかけて築いてきた財産について、信頼できる後見人に財産管理を委ねる必要性が出てきています。これが後見人の制度がいま注目されている理由です。

 

2.任意後見人と法定後見のできることは違うの?

 

任意後見人の場合には、自分が将来判断能力が衰えてしまった時に備えて、事前に後見人を選んでおくことができます。そのため、どのようなことを後見人に託すか、つまり、後見人の権限については任意後見契約で決めておくことになります。

例えば、「相続税対策のために資産運用をすること」などといった、いわば財産の積極的利用も委ねることができます。つまり、任意後見人ができることは、依頼者である「あなた次第」で決めることができます。

一方で、法定後見の場合には、できることは法律で決められています。

法定後見では、補助人、保佐人、(成年)後見人という3つがメニューとして用意されています。補助人、保佐人、後見人の順で権限は広くなっては行きますが、基本的には、財産の現状を維持するという活動のみができます。

上で挙げた任意後見人に託すことができるような「相続税対策のために資産運用をすること」などは法定後見の場合にはできません。つまり、法定後見人ができることは、あなたの財産の現状維持ということに限られることになります。

この点は、実務ではたいへん悩ましい問題となります。

例えば、このままであれば、将来、相続税の負担が大きくなることが見えているのに、相続税対策として現金を不動産に変えることなどは法定後見人はすることができません。指をくわえて見ている以外のことはできません。法定後見制度の問題点として実務家が指摘する問題点の1つです

 

3.任意後見人の制度とは?

 

任意後見の制度は、すでに述べたように、ご自身の判断能力が十分ある時点で、将来の認知症などに備えて自分で将来の後見人を選んでおくという制度です。
ここでは、任意後見の手続き等について簡単にまとめたいと思います。

任意後見人を選ぶには、任意後見契約という契約を結びます。これは、公証役場というところで公正証書という書類を作らなければなりません。
任意後見人は未成年者や破産者など一定の場合を除けば、誰でも任意後見人になることは法律上は可能です。ただ、実際には次にあげるように司法書士などの専門家に依頼することが一般的には良いと言えます。

 

4.任意後見人を依頼したい場合には?

 

任意後見人には、成人であれば基本的に誰でもなれますので、ご自身が信頼できる人であれば誰でも構いません。一般的には信頼できる身内に依頼をして任意後見契約を締結することが多いのが現状です。

信頼ができて身内で世話をしてくれそうな方がおられれば親族に任意後見契約をお願いするという方法も十分に「あり」です。

 

ただ、後見人には後見監督人という「お目付」のもとで財産管理や身上監護などの事務を行わなければならず、(自分自身のお仕事などがありながら)ずっと後見人を続けることは一般的に難しいというのが現実です。

そこで、専門家に任意後見の契約を依頼するという方法もあります。後見は司法書士、弁護士、社会福祉士などの士業が主に携わっています。これら専門家の事務所を訪れて、任意後見の依頼をするのもひとつの方法です。

 

5.法定後見人の制度とは?

 

任意後見に対して、法定後見人の制度もあります。

法定後見人の制度は先に書きましたように、判断能力が衰えてしまった方に対して、親族等の申し立てで裁判所が選ぶものです。

法定後見については、補助、保佐、後見という3つのメニューがあるということは、先述べさせていただきましたが、実際には後見の申立が極めて多くなっています。

 

6.法定後見人とは?

 

法定後見人には、親族や士業が選ばれます。

平成28年の最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」というデータによると、親族が選ばれるケースが約28パーセント、士業が約71%となっています。

そして、士業の中では、司法書士が約9400件、弁護士が約8000件、社会福祉士が約3900件となっています。

 

法定後見人については、法律専門家の中では司法書士が特に力を入れています。

士業の法定後見人は、業務の適正を守るために、裁判所からの監督に加えて、任意団体(例えば司法書士であれば「リーガルサポート」という団体)を作ってダブルチェックを行っています。法定後見人は、本人の財産を守るということが仕事ですので、財産を積極的に利用するなどの行為は、法定後見人の権限を超える行為となり、認められません。

なお、法定後見とも任意後見とも違う後見制度として市民後見人という制度もあります。

これは、親族でも、弁護士や司法書士等資格者でもないものの、社会貢献のために地方公共団体の養成講座などを受けた人が後見人となるものです。

上記の「成年後見関係事件の概況」ですと、市民後見人は200件ほどの利用例があります。

 

7.まとめ

 

本文で述べた任意後見人や法定後見人の違いなどをまとめたいと思います。

まず、任意後見人は、自分自身の判断能力が十分なときに、将来に備えてあらかじめ後見人を選んでおくというものです。方式は公正証書で行わなければなりませんが、後見人に委ねる権限は自分自身で選ぶことが可能です。そのため、資産運用などを依頼するということもできます。

これに対して、法定後見人は、判断能力が低下してしまった後に、親族の申し立てなどにより裁判所が選任するものです。後見人の権限は法律で決められており、おおむね、現状の財産管理に限定されてしまっています。

平成30年現在では、後見の利用はおおむね20万人程度です。しかし、実際に後見が必要とされているという方はもっと多いとされています。

にもかかわらず、後見制度の利用が促進されないのは旧制度の差別意識が残っているということも大きいと思われます。つまり、後見制度は、かつては禁治産者(きんちさんしゃ)という制度で呼ばれており、「自分自身で財産を管理する能力をなくしてしまった」という一種の烙印であり、「戸籍が汚れる」などと言われたいへん嫌われていました。

この禁治産者制度は、2000年の法改正により、禁治産者制度は廃止され、「自己決定の尊重、ノーマライゼーション」という積極的、前向きな理念に変えられました。しかし、理念の浸透がまだまだ追いついておらず、抵抗感が強いということが後見利用を妨げている一因と思われます。

今日の超高齢化社会で、財産管理に汲汲とせず、安心して人生を楽しむためには専門家の後見人を選任して、財産管理に縛られる人生を卒業するということが気楽で楽しい時間を過ごすことができます。

後見制度を前向きに捉えて積極的に利用すること(特に自分で後見人を選ぶことが出来る任意後見)も考えてみるとよいでしょう。

 

8.事案

 

 実際、弁護士等の専門家が成年後見人に就任するケースは、被後見人の財産が、家族の一部により使い込まれている、ないし、使い込まれる可能性が高いといったものが考えられます。こういったケースも、成年後見人が就任すれば、財産の使い込みを回避することが可能です。

 

投稿者: 佐藤嘉寅

東京弁護士会所属 登録番号31773 平成16年10月,弁護士登録し,平成20年11月,湯島にて独立開業。 平成25年1月,弁護士法人みなとパートナーズを開設。 みなとパートナーズは,税理士,司法書士,社会保険労務士との合同事務所であり,あらゆる法務,税務,労務問題に対し,ワンストップリーガルサービスを提供しています。 http://www.minato-cp.com/