家族が亡くなった場合、葬儀費用や医療費の支払いなどにまとまったお金が必要となります。また故人の預金は相続財産となり(※これについては後述5参照)、誰がいくら相続するのか決めなければなりません。そのため、どの銀行にどれくらい預金があるのか把握することは大切です。

遺品整理における預金口座の取扱い及び処理の方法についてご紹介します。

 

1.  遺品整理とは

 

  1-1. 遺品とは

遺品とは、故人が生前住んでいた部屋や家に残されたものをいいます。

遺品には、タンス、ベッド等の家財道具や冷蔵庫、テレビ等の家電製品、衣類など日常生活で使用していたものや、写真、思い出の品等や、保険証やパスポート等の個人情報に関わるものや、家の権利書、株券といった重要書類があり、その種類は多岐に渡ります。「遺品」という言葉は、通常は、これらの動産や書類の総称として使われています。

 

  1-2. 遺品整理の意味合い

遺品整理とは、単に残されたものを全てゴミとして廃棄することではありません。故人が残したものは故人の所有に属していたものですから、遺品整理とは、法的には相続財産を分割するための準備行為、及び処分行為です。他方で、現実的には、遺品の中から思い出の品や必要なものに分別して整理し、不要なものは処分し、綺麗に片づけることをいいます。

 

2. 故人の銀行口座の整理

 

口座の凍結を解除し、預金を相続人間で分配することが基本的な流れとなります。

 

  2-1. 銀行口座の凍結

銀行口座は、銀行取引約款に記載されているように、名義人のみが利用できます。亡くなった方名義の口座は、どなたも利用することができません。

そして、銀行が口座の名義人が亡くなった事実を知った時から、銀行口座は凍結されます。

 

では、何故口座を凍結する必要があるのでしょうか。

故人の預金は相続財産であり、相続財産は共同相続人間で分割する相続の手続をしなければなりません。したがって、相続人又は第三者が預金を勝手に引き出し、自分のものにしてしまうことを防止し、相続トラブルを予防するために銀行口座を凍結する必要性があります。

銀行としては、相続トラブルに巻き込まれたり、後に責任を問われないように、死亡の事実を知ったときから銀行口座を凍結しています。

 

  2-2. 口座凍結解除の方法

人が亡くなると、市区役所へ死亡届を提出することになっています。しかし、市区役所へ死亡届を提出したとしても、それが各金融機関に通達されることはありません。したがって、死亡届を提出したからといって、直ちに銀行口座が凍結されることはありません。遺族が速やかに銀行へ亡くなった事実を伝えることで、これが行われます。通常は、家族が故人の死亡の事実を銀行に伝えることにより、銀行は口座名義人が亡くなった事実を知り、口座を凍結します。

 

  2-3. 口座凍結解除の具体的な手続き

口座凍結解除には、一定の手続きが必要です。

銀行所定の用紙に必要事項を記入し、必要書類を添えて、書類を提出します。

遺言書の有無で必要書類は異なります。

 

・遺言書がある場合の必要書類

①遺言書

②被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(死亡の記載のあるもの)

③その預金を相続

する方(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書

 

遺言書の種類及び内容によって、以下の書類が必要な場合もあります。

④遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で遺言執行者が選任されている場合)

⑤検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)

遺言書の保管者またはこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を受けなければなりません。

検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等が立会いをしたうえで、開封しなければならないことになっています。

 

・遺言書がない場合の必要書類

  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名・捺印があるもの)

遺言書がない場合には、遺産分割協議書を用意します。遺産分割協議書とは、遺産分割の内容及び方法について相続人全員で話し合って、相続人全員が合意に達した遺産分割の内容及び方法を記載した書面をいいます。

②被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)

③相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書

④相続人全員の印鑑証明書

 

口座凍結解除に必要な手続きには、上記の書類の他にも書類を要求されることがあります。

例えば、「相続に関する依頼書」のような表題の書類を要求されることがあります。これは、遺産分割協議書に記載した内容の預金の払出しを依頼するものです。また、遺産分割した預金の振込先情報として、相続人の口座番号等を記載した「振替依頼書」のような表題の書類が必要となる場合もあります。

 

  2-4. 凍結解除までに必要な期間

銀行によって異なりますが、通常は、必要書類を提出してから1〜2週間程度かかるようです。即日相続人の口座に振り込んでくれるところもある一方で、3週間程度先となるところもあります。

期間については、故人の預金口座がある銀行に直接問い合わせをしてみることをおすすめします。

 

3. 故人の銀行預金口座の調べ方

 

    3-1-1. 金融機関への問い合わせ

故人の銀行口座が分からない場合にはどのようにしたらよいのでしょうか。

全国には多種多様な金融機関があります。それらすべてに対して、一括して一度の照会で故人の口座を検索するシステムは、今のところありません。したがって口座の有無及びその残高は、それぞれの金融機関に問い合わせて確認することが、基本的な調べ方となります。法定相続人は、銀行に対して口座の残高や取引履歴の照会を行うことができます。

 

    3-1-2. 預貯金照会の手続に必要な書類

紹介手続をする者が法定相続人であることを示すための、以下の書類を持参します。

①被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(死亡の記載のあるもの)

②照会手続をする者が相続人であることがわかる戸籍謄本

③照会手続をする者の印鑑証明書及び実印

④照会手続をする者の本人確認書類(免許証やパスポート等)

 

    3-1-3. 法定相続情報証明制度の活用

現在、相続手続では、被相続人(故人)の戸籍謄本・除籍謄本等の束を、相続手続を取り扱う各種窓口に何度も出し直す必要があります。

法定相続情報証明制度とは、登記所(法務局)に戸籍謄本・除籍謄本等の束と、相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すると、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを交付してくれる制度です。交付手数料は、無料です。

その後の相続手続は、法定相続情報一覧図の写しを利用することにより、戸籍謄本・除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。戸籍謄本・除籍謄本等を何度も取得するのは、時間もお金もかかります。この手続を利用すれば、期間の短縮になり、戸籍謄本・除籍謄本等の取得回数も減らせるので費用の削減にもなります。

 

  3-2. 自分でできる預金口座の探し方

 

    3-2-1. 通帳、郵便物等を確認

遺品整理の過程で、故人名義の通帳やキャッシュカード、または銀行からの郵便物を探します。全く手がかりになるものが存在しない場合には、ご自宅や勤務先の近くにある各銀行に直接問い合わせてみましょう。

 

    3-2-2. ネット銀行の場合はメール履歴を確認

近年利用されているいわゆるネット銀行では通帳やカードが作られないことも多いため、普通の銀行のように、遺品整理の過程で、口座の存在がわかることは、あまりありません。

ネット銀行の取引はインターネット上で行われますので、故人の使用していた端末のブラウザのブックマークや履歴に、ネット銀行を利用していた形跡があるかもしれません。また、ネット銀行ではメールによりキャンペーンなどの案内を頻繁に送付しているため、故人のメールを確認することにより預金口座を発見することができる可能性が高いです。パソコン、スマートフォンやタブレットを処分してしまう前に、一度確認してみることをおすすめします。

 

    3-2-3. トークン、パスワードカードを確認

ネット銀行によっては振り込みをする場合などに必要となるパスワードなどを「トークン(パスワード生成機)」で管理している場合があります。また、ワンタイムパスワードを作成するアプリを使用している場合もあります。故人の遺品中にトークンがないか、故人のスマートフォンやタブレットなどにワンタイムパスワードのアプリがインストールされていないか、確認してみましょう。

 

  3-3. 相続の専門家の力を借りる

預金口座を複数所有して、それぞれに預金がある場合が多いです。故人の取引をしていた銀行の数に応じて、残高の確認や口座凍結の手続をすることになります。また、預金口座がどこにあるか分からない場合には取引していた可能性のある銀行ごとに照会する必要があります。銀行ごとに書類を準備し、何度も時間を作って平日の銀行窓口が空いている時間に訪問して手続をすることは、大変です。

弁護士、司法書士、行政書士など相続の専門家に、これらの手続きを一括して代理して行ってもらうことが可能です。負担を軽減し、後のトラブルを防止するためにも、プロの手を借りるのもよいでしょう。

夫婦の相続であればともかく、親子や兄弟相続の事例では、核家族化がすすみ親子や兄弟姉妹の会話も十分でない昨今、被相続人の預金口座がどこにあるかあたりをつけるのは非常に困難かと思います。このあたりをつけることは、専門家の経験が特に生かされる部分かと思います。よく経験するのは、相続人(依頼者)から「どこそこの銀行との取引はない」といわれていても、経験上銀行口座がありそうな場合に、調査照会をすることで口座が見つかることがあります。なお、こういった場合預金残高が多額でない場合が多いです。

 

4. 遺品整理の注意点

 

銀行口座の預金は、遺産分割の対象となります。

全ての遺産分割手続きが終わった後に預金口座が見つかった場合、遺産分割をまたやり直さなければならない場合もあります。また、FXや先物取引などの証拠金取引を持っていたら、知らない間に負債となってしまっている可能性もあるため、このような場合にはなるべく早く対処する必要があります。

また、5で後述するように、故人の口座の預金は、葬儀費用等の相続手続に必要となったお金などを精算する原資となります。

さらに、2016年12月「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)」が国会で可決され、2018年1月より施行されました。この法律により、2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等(休眠預金等)は、民間公益活動に活用されることとなります。ここで、休眠預金等とは預金者等が名乗りを上げないまま10 年間放置され、入出金等の「異動」がない預金のことをいいます。したがって、故人の預金口座に気づかず長年放置していると、その口座の預金は、民間公益活動費として使用されることになってしまいます。

以上のように、故人の銀行口座を漏れなく把握する必要があるといえます。

 

5. まとめ

 

家族が亡くなった場合、葬儀費用や医療費の支払いなどまとまったお金が必要となります。

このような費用は、相続人の誰かが立替えておき、後で精算するという処理が現実的です。

そして、相続人のうちひとりがまとめて立替えをしていた方が、後の清算がスムーズかつ明確に行える場合が多いでしょう。

また、故人の預金は相続財産となるため、きちんと手続きをしなければ争いのもとになってしまうこともあるでしょう。

 

故人の預金口座については、まず、故人のほかの遺品や生活状況から口座の存在をしめす手がかりを探すことが重要です。これがすべてのスタートとなります。

あとは、銀行に必要な資料を確認し、必要な戸籍謄本等の資料を集め、遺産分割協議書を作成して、その他銀行から要求された用紙に必要事項を記入して手続きをします。

遺品整理における銀行口座の処理は、預金が遺産の調整に非常に重要な役割を果たすことから、大切な手続きになります。そのため、今回ご紹介した方法をご参考にしてはいかがでしょうか。

 

故人の銀行口座についての一般的な説明は、以上です。

 

(実務上の所感)

凍結解除に必要な書類は、一般的な説明としては、上記のとおりすべての銀行に共通している部分が多いですが、個別具体的な事案では、銀行が違えば手続きも若干異なり、また、同じ銀行でも従来とは若干異なった扱いとなっているところもあります。総じて、銀行口座の手続きは、まちまちで流動的だと思います。

 

口座凍結解除等の手続には、遺産分割協議書と印鑑証明書が必要です。印鑑証明書が必要だということは、押印は実印でなされなければなりません。

現実問題としては、遺産分割協議を成立させること自体が、それほど容易なことではありません。例えば、遠方に相続人がいる場合、、相続人が一堂に会することが難しく、合意に達するのは容易ではありません。

また、遺産分割協議書には、相続人全員の実印による押印と印鑑証明書の添付が必要ですが、銀行の数だけ印鑑証明書を要求されるのが通常の取り扱いです。印鑑証明書を複数準備することになりますが、日常生活ではそのようなことはあまりないため、抵抗感を示す人が多いです。

さらに、書類の訂正(訂正箇所すべてに訂正印として全員の実印を押す)が必要となる場合には、相続人全員のもとを周りますが、これは骨が折れますし、時間もかかります。

遺産分割協議書の作成と口座凍結解除には、あらかじめ銀行間をまわって必要な書類を問い合わせ、書類を整理して準備をし、その後にまとめて手続きを行うのがよいでしょう。

 

このような苦労を少しでも減らすためには、遺言書を用意して、預金について記載しておくことが効果的です。その場合、遺言書の記載方法としては、「すべての預金を○○に相続させる」としておくよりも、銀行と口座番号を特定しておいた方が、手続がスムーズにいくことが多いです。

 

凍結解除についてのスムーズな対応、必要書類の減らし方、遺産分割のやり直しや協議書の訂正が必要となる場合への対応、遠方に相続人がいる場合への対応については、各専門家は独自のノウハウをもっています。弊所では、特に関東以外の遠方にいる相続人やおいめいの関係にあたる者が共同相続人となる場合など、通常困難な部類に属する相続事案について解決事例が複数ございます。もっとも、個別具体的な事情をお聞きしてからでなければ、不正確なアドバイスとなりかねませんので、この点につきましては、よろしければ直接お問合せくださいませ。

 

参考文献

内藤久『もしものときに迷わない遺品整理の話』SBクリエイティブ株式会社、2014年

吉田太一『親の家を片付けるなら「プロ整理業者」に任せなさい』株式会社主婦の友社、2015年

木村榮治『プロに学ぶ遺品整理のすべて』WAVE出版、2015年

赤澤健一『遺品は語る〜遺品整理業者が教える「独居老人600万人」「無縁死3万人」時代に必ずやっておくべきこと』株式会社講談社、2016年

古田雄介『ここが知りたい!デジタル遺品〜デジタル遺品・資産を開く!託す!隠す!』株式会社技術評論社、2017年

投稿者: 副嶋正博

行政書士 桔梗事務所 代表 (東京都行政書士会足立支部所属)‬ 特定行政書士、申請取次行政書士、法務博士(専門職、中央大学大学院) 足立区役所一般相談員、千住公証役場協力遺言立会証人 福岡県福岡市生まれ。 一般企業に勤務した後、中央大学大学院法務研究科修了。 好きな言葉は温故知新。 ご相談内容をじっくり聞いて整理と段取りをつける業務スタイル、に好評をいただいております。