会社を承継することが決まり、これを契機に新規事業に取り組みたいが資金的に不安があるという後継者の方は大勢います。経済産業省中小企業庁では、そんな後継者のために「事業承継補助金」制度を運用しています。はたしてどんな補助金なのでしょうか。

 

1.事業承継補助金申請から、交付までの道のり

事業承継補助金は、申請をすれば必ず受けられるというものではありません。平成29年の募集では、採択されたのは12.6%でした。このことから厳しい審査だということが窺えますが、補助金を交付してもらうまでにどのような手順を経ればいいのでしょうか。

1-1.事業承継補助金とは

事業承継を契機にして、経営方針や業態を変えようとしている後継者の新たな挑戦を支援する制度です。経営革新等に必要な経費を上限5百万円まで補助します。

 

1-2.事業承継補助金申請手続の仕方

事業承継補助金は、毎年4月~6月に募集が行われます。平成30年は二次募集として7月~8月にも募集が行われました。補助金申請は、こうした募集の機会を見計らって申請をします。募集要項に従い必要な書類を揃えて、郵便や宅配便等または電子申請で行います。

 

 

1-3.事業承継補助金申請に必要な書類

申請に必要な書類は以下のとおりです。

 (1)事業計画書

 (2)補足資料説明書

    ビジネスコンテスト受賞実績等

 (3)住民票

   被承継者と承継者

 (4)認定経営革新等機関による確認書

   認定経営革新等機関の印鑑があるもの

 (5)応募資格を有していることを証明する後継者の念書

 (6)履歴事項全部証明書

 (7)最近の確定申告書

 (8)直近の決算書

 (9)抜本的な金融支援を含む事業再生計画を策定した場合、それを証する書類

 (10)「中小企業の会計に関する基本要領」の運用を受けていることが分かる書類

 (11)経営力向上計画の認定を受けている場合は認定書

 (12)応募者の所在する市区町村の売上規模が分かる決算書

1-4.事業承継補助金申請の審査を通過するのに大切なこと

この補助金は、中小企業・小規模企業者・個人事業主・特定非営利活動法人のうち、地域経済に貢献している会社等を対象にしています。地域に貢献する事業者とは、取引先が地域に存する会社であることや地域の雇用維持・創出に取り組んでいる会社等です。

承継者についても、次のいずれかの要件を満たしていることが求められます。

①経営に関する職務実績を有している

②同業種での実績を有している

③後継者として必要な知識を有している

このため、他業種で働いていた子どもを急いで承継させても、補助金の対象にはなりません。

また中小企業庁は審査の着眼点として、募集要項の中で次の4点をあげています。

 ①新たな取組の独創性

 ②新たな取組の実現可能性

 ③新たな取組の収益性

 ④新たな取組の継続性

このことから、単に事業承継するだけでなく、新たな取組に着手することが求められているのが分かります。

1-5.事業承継補助金申請でもらえる補助金の額

補助金の上限額は、承継する事業のタイプによって異なります。

(1)事業承継を契機として、経営革新に取り組む場合……上限 2百万円

経営革新とは、従来店とは異なる商品を取り扱った店を出店し、新たな顧客層の開拓に繋げ、売上を増加させることをさします。

以前の店で野菜だけを扱っていたが、果実とスイーツが売りの店を出店して、これまでとは異なる客層を開拓し、多角化によって売上を増加させた場合などが該当します。

(2)事業承継を契機として、事業転換に挑戦する場合……上限 5百万円

事業再編や業種転換が、これに該当します。

事業再編は、これまで大手メーカーの下請けとして部品の製造が業務の核だったものを、ITの活用により、新商品を開発し新たに市場を開拓した場合などが該当します。 

業種転換は、老舗の八百屋が事業承継を機に、これまでの野菜入手のルートを活かして、フレンチレストランへ業態変更する場合などが該当します。

2.事業承継補助金を利用するメリットとデメリット

事業承継補助金は交付をされればどんなメリットがあるのでしょうか。またデメリットはないのでしょうか。

メリット1:会社経営の潤滑油になる

経営者が変わり、事業形態も変わるとなると、なにかと経費がかかるものです。そんな折に、補助金を交付してもらえたら、経営的にはずいぶん助かります。

メリット2:事業計画の見直しができる

事業承継補助金申請に際しては、事業計画書などを提出して厳しい審査を受けなくてはいけません。そのためには、この機会に事業計画の根本的な見直しが必要になるでしょう。経営のウィークポイントを発見するいい機会にもなります。

デメリット:補助金申請に合わせて実行しなくてはいけない

補助金申請では承継の時期や計画が盛り込まれています。補助金を交付してもらうためには、申請内容に合わせたスケジュールで行動する必要があるため、自由の度合いが制限されます。

3.事業承継とは

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。後継者は主に、①親族への承継②役員・従業員への承継③社外への引き継ぎ(M&Aなど)の3パターンになります。

(1)親族への承継

親族へ承継する場合は、後継者の適性が問題になります。他社で修行を積ますなど、若い時代から計画的な後継者教育を進めたことにより、承継がうまくできたケースが多くあります。

(2)役員・従業員への承継

これまで「同じ釜の飯を食べてきた」従業員への承継は、承継後も仕事が違和感なく流れるというメリットがあります。後継者も従業員の中から、実力本位で選べます。一方従業員もそれが仕事に励む活力になります。

(3)社外への引き継ぎ(M&Aなど)

後継者が身近で確保できない場合は、他の企業や第三者に引き継ぐ方法があります。譲渡したお金で会社の債務を清算できることや従業員の雇用や取引先との関係を継続できるなどのメリットがあります。

4.事業承継をするための方法

事業承継は、即断即決でできるものではありません。スムーズな事業承継をするためには、やはり長期間の準備が必要です。それではどのような準備をどのような手順で進めればいいのでしょうか。

4-1.事業承継をするための準備

事業承継をするためには、まずは現状の把握から始めます。資産や負債はどれだけあるのか、知的財産はなにがあるのか、不採算事業はないかなど会社の状況を分析したうえで、後継者の選定をします。

後継者が親族であれば、同業他社で修行を積ませるなどの後継者教育は欠かせません。そのためにも、事業承継は早い時期から進める必要があります。

それらの準備ができたら、事業承継計画書の立案をします。会社のウィークポイントが分かったら、それをどう克服するのかについて計画をたてます。さらに経営権の移譲計画、内部昇格計画などを組み込みます。

4-2.事業承継を成功させるために必要なこと

事業承継は必ずしもうまくいくものではありません。成功させるためにはいくつかの必要なことがあります。

ひとつには、いかに後継者に自信をもって経営をしてもらうかということです。その意味では、事業承継補助金は、新たな事業を支援するのですから、まさに後継者の手腕が振るえる場を提供することになります。

そのためには、前経営者は潔く身を引くことも必要です。いつまでも会社に顔を出していては、後継者の自信は身につきません。また従業員も後継者に対する信頼が芽生えてきません。アドバイスは、後継者自らが相談にきたときで十分です。

4-3.経営承継円滑法の活用

事業承継をサポートする制度として、経営承継円滑法があります。これは、前経営者から贈与された自社株について、後継者の事業継承を要件に相続税や贈与税が猶予または免除されるものです。

また都道府県知事の認定を条件に、事業承継時に公的な金融支援を受けることができます。

   

5.まとめ

ここまで事業承継補助金についてご説明をしてきましたがいかがだったでしょうか。

事業承継補助金で採択率を高めるポイントは、やはり当補助金の使い道を記す事業計画書です。

承継による新たな取り組みに対して「独創性」「実現可能性」「収益性」「継続性」がどのように織り込まれているかが注意すべき点になります。

事業承継補助金の募集の時期は限られていますが、募集要項が発表されてから準備しても採択されるまでの申請書に仕上げるのは至難です。補助金制度が求めているのは経営革新ですから、成算のある新しいアイディアを醸成しなくてはいけません。

当事務所は経営革新等支援機関であり、事業承継を専門としている事務所になりますので、補助金申請に限らず、事業承継についてお悩みがあればぜひご相談ください。

 

投稿者: 相原仲一郎

税理士、相続診断士、事業承継スペシャリスト。 約15年間、相続・事業承継のコンサルティング業務及び相続税の申告業務を中心に活動。 多くの案件に関与してきた実績に基づき、「次世代に円滑な承継」をテーマとしてクライアントの承継問題を解決している。