1.成年後見人の持つ権利とは?

日本は高齢社会を迎えており、内閣府のデータによると、2016年の総人口に占める65歳以上の割合は約27%となっています。
(http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_1.html)

高齢者の増加にともない、特に高齢の方々やそのご家族の間で、遺言や成年後見制度に対する認知度が高まっているのを感じます。

成年後見制度とは、判断の応力が不十分な方々に対して、法律面や生活面で保護・支援をする制度のことをいいます。
成年後見制度のうち、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法第7条)が利用する成年後見においては、本人の保護・支援を行う人を「成年後見人」といいます。
成年後見人は、次のような権利を持っています。
・取消権(民法第120条)
・財産管理権と代理権(民法第859条)
・身上監護に関する権利

2.成年後見人は財産管理を行う権利を持つ

成年後見人はその管理が難しくなった本人に代わって、本人の財産を管理する権利を有しています(民法第859条)。
財産を管理する権利とは、成年後見人が本人の預貯金を管理することや、毎月の施設費用等の生活に必要な費用を支払ったりすること、保険や公共料金の支払いをすること等に加えて、不動産の管理や遺産分割協議等を本人の代わりに行うことも含まれるとされています。
ただし、居住用不動産を売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするときは、家庭裁判所の許可が必要となっており(民法第859条の3)、成年後見人が本人の財産につき、全てを自由に処分することはできない仕組みになっています。

また、原則として1年に1回、本人の財産状況を家庭裁判所に報告することが義務付けられており、財産を本人のために使用しているかどうかチェックをされることになっているため、当然のことながら本人以外のために本人の財産を使用することは制限されています。

3.成年後見人は身上監護を行う権利を持つ

成年後見には、本人の生活や健康を管理することに対して法律行為を行う権利(そして義務)があります。
身上監護とは、施設へ入居する際の契約の締結や施設費用の支払い、介護保険に関する手続きや入院の手続き等のことをいいます。
成年後見人が有する身上監護権とは法律行為に関するものであるとされているため、毎日本人と会ってデイサービスへ送り届けたり、本人の食事を作ったりするようなことまで義務付けられていません。
成年後見人が食事を作る義務はありませんが、本人が食事をできる状態にしなくてはなりませんので、必要に応じて訪問介護サービスを受けられるように契約をすることや、食事の宅配サービスを利用するための契約を締結することになるでしょう。

4.成年後見人になれる人は?

成年後見人になるためには特定の資格は必要とされていません。裁判所の公表しているデータによると、平成29年1月から12月の間に後見等が開始した事件のうち、成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の全体の約26%は配偶者、親、子、兄弟姉妹及びその他親族となっており、司法書士、弁護士、社会福祉士の専門家が全体の約63%を占めているという状況になっています。
(http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20180312koukengaikyou-h29.pdf)

成年後見人になるためには特定の資格は必要とされていませんが、誰でも自由になれるというわけではありません。
次の人は成年後見人になることができません。
・未成年者
・家庭裁判所に解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
・行方不明者

5.成年後見人は遺産相続をする権利を有しているのか?

成年後見人は、あくまで本人のために代理して契約を行う等をすることができるという位置付けであり、当然のことながら本人自身ではありません。
本人が相続人となる相続において、成年後見人が本人に代わり相続財産を承継するということはありません。
なお、成年後見人には財産管理権がありますので、本人が相続した財産の承継手続きや管理を行うことができます。

本人と成年後見人の関係においては、成年後見人が本人の相続人でない限り、成年後見人という理由だけで本人の財産を相続することはありません。
同様に、本人が成年後見人の相続人でない限り、成年後見人の財産を本人が相続することもありません。

例えば、成年被後見人が「母」で成年後見人が「子」であるようなケースは、成年後見の話とは関係なく、法律上の定めに従って「母」の財産を「子」が相続することになります。

6.成年後見人が遺産分割協議をすることはできるのか?

相続人全員が遺産の分配方法を決める話し合いのことを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ有効に成立しません。
そのため、相続人のうち1名が「判断能力が欠けているのが通常の状態の方」だとしても、当該相続人を除いて残りの相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできません。

さて、成年被後見人は法律行為をすることができず、遺産分割協議をすることは法律行為に該当します。
つまり、成年被後見人自身は遺産分割協議をすることはできません。

この場合、成年被後見人に代わり、成年後見人が遺産分割協議に参加をすることになります。

7.成年後見人が遺産分割協議をするためには

成年後見人は、本人に代わり他の相続人と遺産分割協議をすることができます。
成年後見人は、本人の財産を保護する義務がありますので、本人が全く遺産を承継しないような遺産分割をすることは成年後見人としての義務違反に該当します。

他の相続人に、自分が成年後見人であり遺産分割協議をする権利(義務)があることを示すには、成年後見登記事項証明書を提示するという方法が考えられます。

ところで、成年後見人と本人の利益が相反するときは、特別代理人の選任を家庭裁判所にしてもらわなければなりません。

例えば、父Aが亡くなったときに、その相続人が妻(子から見ると母)Bと子Cであるようなケースにおいて、母Bが成年被後見人、子Cが成年後見人だったとします。
相続人は母Bと子Cになりますが、母Bの代わりに子Cが遺産分割協議をすることができるとなると、子Cが自分が有利になる遺産分割内容とすることもできてしまいます。
このようなケースの状況を、母Bと子Cの利益が相反しているといいます。

特別代理人が必要かどうかは外形的に決まるため、子Cが、母Bに全て相続してもらおうと思っていたとしても、特別代理人の選任は必要です。

なお、遺産分割協議のために新たに成年後見の申立てをするときは、遺産分割協議の分割案を家庭裁判所に要求されることも少なくありません。

8.成年後見制度とはなにか?

認知症や知的障害等を理由として判断能力が不十分な方は、ご自身の財産を管理したり新たに契約をする等の法律行為をすることが難しい場合が少なくありません。

そのような方々を保護・支援するための制度が、成年後見制度です。

家庭裁判所に選任された成年後見人等は、その権限の範囲に従って、本人の代わりに法律行為を行ったり、本人が行った法律行為を後から取り消すことができます。

成年後見制度のうち法定後見制度には、本人の判断能力の程度等や状況によって後見・保佐・補助の3つに分かれています。

9.成年後見人を必要としている人はどんな人か?

成年後見制度を利用する人は、判断能力が欠けているのが通常の状態にある人で、財産管理や身上監護をしてもらう必要がある人です。

相続という場面においては、預貯金や証券、不動産等の遺産の相続手続をするとき、本人が受取人である生命保険金の請求をするとき、本人が遺産分割協議をするとき、本人が相続放棄をするとき、本人と生活を一緒に生活をしていた配偶者が亡くなったとき等に利用されるケースが多いのではないでしょうか。

前掲の家庭裁判所の資料(※上手くリンク等処理してください)によると、平成29年に申立てがされた後見開始等の申立ての理由としては、件数として多い順に「預貯金等の管理・解約」、「身上監護」、「介護保険契約」、「不動産の処分」、そして「相続手続」と続いています。

10.成年後見人を選任する方法は?

法定後見制度を利用する場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に後見開始の申立てをする方法によります。

後見開始の申立て書類の中に、成年後見人等候補者を記載する欄があります。
そこに記載された成年後見人等候補者がそのまま成年後見人に就任することもありますが、必ず候補者が成年後見人等になるとは限らず、家庭裁判所の判断によって専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が成年後見人等に選ばれることもあります。
近年は、専門家が成年後見人等に選任されるケースが多いことは前述のとおりです。

成年後見人等候補者に記載された人が成年後見人に選任されたが、それを監督する成年後見監督人が選任されるケースもあります。

11.成年後見人の種類には何があるの?

法定後見制度には、本人の判断能力の程度等によって「後見」「保佐」「補助」の3つがあります。
後見の対象となる方は「事理を弁識する能力を欠く常況にある方」(民法第7条)、保佐の対象となる方は「事理を弁識する能力が著しく不十分な方」(民法第11条)、そして補助の対象となる方は「事理を弁識する能力が不十分な方」(民法第15条)とされています。
どの制度を利用するかによって、それぞれ「後見人」「保佐人」「補助人」が家庭裁判所から選任され、これら成年後見人等はそれぞれその権限が異なります。

12.成年後見人には、任意後見人と法定後見人がある。その違いは?

成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。
法定後見制度は、既に判断能力が不十分となっている方に代わり、成年後見人等が本人のために法律行為をしたりする制度です。
一方で任意後見制度は、本人の判断能力が十分にあるうちに、将来判断能力が不十分になる時に備えて、後見人やその代理権の内容をあらかじめ後見人(となる人)と契約をしておく制度です。
判断能力が不十分である人が任意後見制度を利用することはできず、判断能力が十分である人が法定後見制度を利用することはできません。
任意後見制度の特徴は、判断能力が十分なうちに自分で自分の後見人となる人を選択することができる点にあります。
また、任意後見契約は公正証書で行う必要があること、本人の判断能力が不十分となった後に任意後見監督人が選任されてから後見がスタートすること、代理権等は任意後見契約で定められた内容に従う必要があることから、任意後見制度を利用される方は制度の内容を理解されてから利用されることをお勧めします。

投稿者: 石川宗徳

司法書士。汐留司法書士事務所の代表。 著作は『円満相続をかなえる本』(幻冬舎、共著)、『外国人・外資系企業の日本進出支援実務Q&A』(日本法令、共著)。 趣味はフットサル。将棋を見るのも好き。山葵が大好物。