1.現行法規以上に、自分たちの想いを形にしやすい信託の活用事例

(1)資産運用と節税効果

相続対策として何をしておくべきか、お悩みの方は多いと思います。誰に何を渡すべきか、相続税がかかって遺族に十分な資産が残らないのでは、など悩みは尽きません。そこで生前対策に有効な信託についてお話しさせて頂きます。

信託とは、委託者が財産を第三者(受託者)に移転させ、その第三者が資産を運用することを言います。そしてこの信託から生じた利益を受け取る権利が信託受益権です。所有権はどうなるかというと、名義上は受託者に移り、委託者の財産から外れることになります。不動産を例にするとわかりやすいですが、信託財産として登記を行うと登記簿謄本に信託された旨が記載されます。

課税関係に関しては、相続税の計算対象外になるため税金はかからない、と耳にしたことがあるかもしれませんが、実際には信託受益権に対して贈与税または相続税がかかってきます。かからないのではなく、資産が受益権に変わったために評価方法と課税されるタイミングが変わってくる、と認識されるとよいかと思います。委託者自身が受益者となる自益信託の場合は、信託の設定時には課税関係は生じませんが、相続が発生した際に受益権が相続人に移ることになりますので相続税の対象となります。対して、委託者以外の者が受益者となる他益信託については、信託の設定時に委託者から受益者へ贈与があったとして贈与税の対象となります。

ただ、全く節税効果がないわけではありません。評価方法と課税時期が変わることを利用して相続税と贈与税の合計額を減少させることもできますし、一般社団法人を利用する節税スキームも存在します。さらに不動産を信託する場合は、信託登記に係る登録免許税がかかるものの、固定資産税評価額の0.4%と相続による所有権移転と同じ税額であり、かつ、その後の権利の移転も受益者を変更するだけで済み、変更登記費用も不動産1個につき、1,000円と低くなっています。不動産取得税もかかりません。設計さえ間違えなければ、効率的に資産を家族に移すことができます。

(2)子どもが小さなうちでもなどでも安心な財産管理としての信託

判断能力が十分に備わっていない子に財産を残したいという場合、信託は有効な手段となり得ます。

相続が発生すると、親権を持つ親権者がいれば親権者が、親権者がいなければ家庭裁判所で選任された未成年後見人が法定代理人となります。ただ、この法定代理人が自分が望んでいたように子のために財産を管理運営するかはわかりません。相続が始まってしまうと親族が相続人の代わりに財産を管理運営することになるのが通常ですので、親族に適任者がいない場合、事前に信頼できる人に信託しておけば、子に想定通りの利益を供与することができます。

その他、子や孫へ経済的な支援を行いたいが、まとめて渡してしまうと先に使い果たしてしまうのでは、と危惧されている方にも信託の利用がおすすめです。資金が必要となるタイミングで段階的に渡すことができ、ご自身が認知症になったり、お亡くなりになられた後でも有効です。ただし、一般的な生活費や教育費としての贈与であれば、社会通念上、過大な金額でなければ贈与税はかからないところなのですが、まとまった金額を信託するということになると、信託設定時に贈与税がかかるリスクがある点はご留意ください。なお、教育費だけを目的とする贈与であれば、教育資金贈与信託を利用すると1,500万円までは非課税となりますので、こちらもお勧めです。

ちなみに信託銀行に依頼してもよいのですが、費用が高くなってしまうため、家族信託を利用されるとよいかもしれません。その場合、受託者が浪費してしまう可能性もゼロとは言えませんので、司法書士や弁護士等の専門家に受託者を監督する役目を持つ信託監督人への就任を依頼されると安心です。

 

(3)誰に渡したいかを叶える受益者連続信託

信託を利用するメリットのひとつとして受益者連続信託があります。

遺言には誰が財産を相続するか指定する能力がありますが、財産を相続した者が次に誰に相続させるか(本人から見て「二次相続」といいます)までは指定することができません。指定できるのは一次相続までです。先祖代々、長男の家系が相続してきた財産があったとしても、どこかでその伝統が崩れることになったとしても不思議はありません。

そのような問題に対処することができるのが信託です。信託を設定すると受益権が発生することは先に述べましたが、この受益権は、信託条項の中で承継する者を先々まで指定することができます。

ただし、永遠に指定できるわけではなく、信託が設定されたときから30年経過後に、新たに受益権を取得した受益者が死亡するまでが有効期間となっていますので、その点はご留意ください。

 

(4)活用例

<ケース1:相続人が2名いる場合の不動産信託を使った争族回避>

不動産はそのままでは分けることができませんので、相続人が2名いる場合は、どちらか一方だけが相続するか、共有持分にする、もしくは売却して金銭で分けることになります。このような場合に不動産を信託し、受益者を2名かつ不動産から生じる収益を平等に受け取れるよう設定しておけば、不動産を残すこともできますし、争族のリスクは格段に減ります。なお、受託者を一般社団法人とする自益信託を設定することで相続税を減少させることもできます。仕組みとしては、信託受益権になっていますので、相続発生時の受益権に係る相続税は避けられませんが、一般社団法人には株という概念がありませんので、株式の相続というものがありません。そのため、収益を配分せずにプールしておいたとしても株式会社のような株価の上昇はなく、その上昇分には課税されないことになります。受益者を当該一般社団法人の理事にしておけば、受益者の意思で給与等として受け取ることも可能です。

<ケース2:特定の時期にお金を贈与するケース>

上記1.(2)で述べた、子や孫に金銭を贈与するケースを具体的に考えてみます。例えば、高校入学時、大学入学時、そして結婚式を挙げるときに金銭を贈与するとします。信託銀行に委託すると費用が高くなってしまうため、家族信託を用い、かつ司法書士に信託監督人を依頼することでコストカットを図ります。手続きとしては、信託契約を結び、受託者名義の信託口座を開設し、その口座に金銭を預けるだけで後はお任せです。簡単にご自身の意思を反映させることができます。

 

2.相続で信託を活用するメリット・デメリット

いろいろと述べさせて頂きましたが、主なメリットとしては①事業承継や二次相続指定(生前の財産の移転による相続の円滑化や財産の浪費等の想定外の減少を防ぐ)、②認知症対策(判断能力が衰えた場合でも信頼できる受託者が代理で財産を運用・処分可能)、③不動産に係る流通税の圧縮、といったところになります。

対してデメリットとしては、①節税対策になるかどうかはケースバイケースという点です。

相続税がかからなければ贈与税が、贈与税がかからなければ相続税がかかってきます。運用期間中の所得税の問題もあり、収益不動産を信託財産とした場合、その信託財産が赤字であったとしても他の所得との損益通算はできなくなってしまいます。

さらに②簡単に信託契約を変更したり、やめることができない、という点もデメリットになり得ます。

変更の多くには委託者の合意が必要ですが、委託者が亡くなってしまうと変更できる内容が少なくなってしまいます。委託者の地位も相続により承継できますが、消滅させることも可能です。例えば、受益者連続信託を設定したものの、不測の事態が起こったために相続人全員の合意を持って変更しようとしても、委託者が消滅してしまっていれば変更は難しくなります。

信託とはあくまで目的を最適化するひとつの手段であり、メリットを得られたとしても結果として税金が多くかかってしまう等、デメリットも当然にありますので、何を目的とするか(資産運用なのか、相続の円滑化なのか、節税対策なのか)をはっきりと認識された上で選択されることをお勧め致します。

 

 

3.相続で信託を活用したい場合の相談先は?

税金の問題は切っても切れませんので、最初から税理士に相談するのもよいですが、まずは信託に精通した司法書士や弁護士に相談されるのがよいかと思います。

全体像の設計と信託に係る法律面及びその実行に係る手続きを把握した上で、税理士にお尋ね頂ければ、メリット、デメリットを踏まえた最適なご提案ができると思われます。

投稿者: 安川隆浩

1982年富山生まれ。 特別目的会社(SPC)を専門に扱う会計事務所で匿名組合や投資事業組合といった ファンド系の会計税務を経験。 その後、方針転換し、不動産会社の経理を経て中小企業向けの税理士法人に勤務。 2017年1月に独立開業し、 個人・法人に係る決算業務の他、相続に関する 相談・申告を承っています。