まず,「家族信託」というのは,一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。信託法に基づいて個人間でなされる信託行為を「民事信託」,信託業法の制限を受ける営業としての信託行為を「商事信託」として一般的には区別しているのですが,「民事信託」の内,親族間で行われるものが「家族信託」と呼ばれています。
従いまして,本記事中ではいわゆる「家族信託」を単に「信託」と呼ぶことにします。また,民事信託には大きく分けて3種類あります。信託契約,遺言信託,自己信託と言われるものです。この内,公正証書による作成または確定日付のある証書による通知がその効力発生要件とされているのは,自己信託のみです。つまり,信託契約と遺言信託については,必ずしも公証人の関与を要しませんが,信託という,今後の生活や重要財産に深く関わってくる制度であることを考えると,いずれにしても公正証書での作成を念頭に置くべきだと思います。実際,専門家に相談または依頼した場合には,公正証書の作成を勧められます。

 

1.家族信託にかかる費用の種類

信託に直接関わる費用としては大きく分けて2つあります。専門家に支払う報酬と専門家に依頼しなくても発生する実費です。実費の部分については,その不動産登記の名義を変更する際の登録免許税と,信託契約書を公正証書にする際の公証人の手数料がそのほとんどを占めるかと思われますので,専門家に応じて大きく変わることはないかと思われます。一方,報酬部分は信託の内容に関するコンサルティング料として設定されている場合が多いようです。従いまして,書類作成や出張,不動産登記,遺言書の作成などを伴う場合には別途発生する場合があります。依頼する専門家の報酬体系については,事前によく確認した方がいいでしょう。

なお,公証人の手数料は下記の通り法定されています。実際には下記の金額に契約書の枚数による加算がされる場合があります。(4枚以上で1枚につき250円加算)

公証人手数料令 別表

 

2.家族信託を司法書士に依頼するときの費用

司法書士の報酬は自由報酬となっていますので,一般的な決まりはありません。また,対象となる財産の価格に応じて報酬割合を変えているのがほとんどかと思います。個人的な感覚では,どの事務所もコンサルティング料として30万円を下限として,対象財産価格の0.1%〜1%程度と定めているようです。また,公正証書作成に至った場合には10万円〜20万円程度加算される場合もあります。

3.司法書士に依頼する登記代行手数料の費用

信託財産に不動産が含まれている場合には,信託契約と同時に不動産登記の名義人を委託者から受託者に変更する手続きが必要となります。制度としては司法書士に依頼せずに,委託者と受託者の当人同士で名義の変更手続き(所有権移転登記と信託の登記の申請と言います)をすることは可能ですが,専門的な知識を要する為,司法書士に依頼するのが一般的です。

司法書士にとっても,信託に関する登記は,売買や贈与などの不動産に関する他の種類の登記に比べ専門性が高い為,報酬もそれなりに差を設けている事務所が多いようです。司法書士の報酬は自由報酬であり,各司法書士が個別に決められる為に事務所によって様々ですが,概ね5万円〜10万円程度のようです。また,対象不動産の価格によっても変動する場合もありますので,事前に確認をした方がいいでしょう。

不動産登記申請手続きには,司法書士報酬の他に,下記記載の登録免許税がかかります。この部分の費用は司法書士に依頼をしても,ご本人で申請しても変わりません。

 

4.登録免許税にかかる費用

対象財産に不動産が含まれている場合には,信託を原因としてその所有権の名義を変更する必要があります。登録免許税はその不動産の固定資産評価額を基準として,建物は0.4%,土地は(延長される可能性はありますが,平成31年3月31日までは)0.3%となっています。固定資産評価額は,固定資産税の納税通知書に記載されています。また,対象不動産の価格にもよりますが,司法書士報酬が10万円程度発生します。

 

5.家族信託の書類作成にかかる費用

(1)家族信託で発生する専門家へのコンサルティング費用

信託業務を行なっている専門家は主に,弁護士,司法書士,行政書士になるかと思われます。例えば遺言書の作成などでは,弁護士,司法書士,行政書士の順でその報酬額が下がっていくのが一般的なイメージかと思いますし,実際そのような実情と言っていいかと感じます。しかし,信託については一概に,上記のような順にはなっていないように思います。平成19年に施行された制度である為に,専門家によってもその得手不得手にバラつきがあることが理由のひとつと言えます。ただし,既に申し上げた通り,そのコンサルティング費用としては概ね30万円を下限として,対象財産価格の0.1%〜1%程度と設定されています。例えば,対象財産が1億円であればその1%で100万円,10億円であってもその0.1%で100万円というような,ある程度の上限を設けている専門家もあれば,対象財産10億円であれば数百万円という費用を設定している専門家も見受けられます。

(2)受益者代理人や信託監督人の報酬にかかる費用

これまで述べた通り,専門家が信託に関わるのは,一義的には,信託の内容を組成し,信託契約書類を作成し,各名義の変更手続きを終えるまでといえます。しかし,信託行為そのものは一生涯,場合によっては相続発生後も続くものです。またその性質上,親族の個人間にその信託契約の履行の有無が委ねられています。加えて,委託者または受益者の意思能力の低下を前提もしくは予定しているからこそ信託制度を利用します。つまりは,委託者や受益者に必ずしも受託者の契約履行を監視することが出来るわけではありません。そこで,信託契約の円滑な運用,受益者の権利保護を目的として,受益者代理人や信託監督人を設置する場合があります。専門家にその就任を依頼した場合には,概ね毎月1万円程度の報酬としていることが多いです。

(3)家族信託を司法書士に依頼する時に費用を安くする方法

信託に限らず,司法書士に限らず,専門家の費用と成果物の完成度は必ずしも比例するものではありません。特に信託は,委託者の重要な財産と想いを将来に安心して引き継ぐ為の制度です。実際に話してみて,親身に話を聞いてくれ,一人一人に合った提案をしてくれる,信頼できる専門家に依頼するべきだと思います。
その上で費用を安く抑えるのであれば,上記の通り,信託の費用については,その手続きごとに費用を分けている専門家がほとんどですので,例えば,信託のコンサルティングだけを受けて,公正証書の作成はご自身で行うことも可能ですし,不動産登記手続きも制度としてはご自身で行うこともできます。その為には何よりも,依頼しようとする専門家の報酬体系を事前に確認することが一番の節約になるのではないでしょうか。

 

6.家族信託を行うことによるメリットとデメリット

(1)家族信託とは?

その言葉の通り,自身の財産を信じた他者に託す契約です。そして,どんな財産を,どのように,誰に託すのかといった事を自身の想いに則ってアレンジ可能な,自由度の高い制度と言えます。相続や贈与であれば,その管理権,処分権,収益権がまとめて移動しますし,成年後見であれば,成年後見人の権限は本人のそれと比べて遥かに制限されています。

(2)メリット

最大のメリットは,やはりその自由度の高さです。遺言,生前贈与,任意後見など法律が定めた相続対策制度はいくつかありますが,それぞれにデメリットがあります。例えば遺言であれば,ご本人がなくなってから初めてその効力が発生する為に,認知症などの対策にはなり得ません。また,第二相続まで指定することはできません。生前贈与では,管理権と一緒に処分権や収益権も受贈者に渡る為に,会社の事業承継においては柔軟性や信用性に欠けます。各人の実情,感情に合わせた柔軟な財産承継が出来る為,他の法的手続きが持つデメリットを補うことができると言えます。
相続対策として語られることが多いのですが,契約の一形態ですので,相続に限らず隠居や業務委託として使用することが出来るのもメリットと言えます。

(3)デメリット

上記,メリットの裏返しがデメリットになるかと思います。
信託が契約であり,ご本人の想いを自由に反映できる為に,その締結にははっきりとした意思能力が必要になります。ご本人が精神的に健康である内に行う必要があるという時間制限は,デメリットのひとつと言えるかもしれません。加えて,信託の内容については契約で決める必要があり,将来的な予測や幅広い視野に基づいた細やかな設計が必要となります。
また,法律施行から10年程しか経っていない為,先例や判例が乏しく,他の法律の整備も遅れている側面も否定できません。従って専門家の間でも,その知識や対応に差が生じてしまっています。

(4)家族信託の活用例

例えば親族間,夫婦間,兄弟間で共有している不動産がある場合に,同居している親族や不動産管理に詳しい親族に,その不動産の管理権のみ信託します。すると,これまでは共有者の過半数が手続きに関与しなければならなかった管理行為を,受託者一人で行う事ができるようになります。管理行為のみですので,受託者は勝手に処分することはできません。また,その収益権や共有者に相続が発生した時の財産権は受託者に移りませんが,管理は停滞する事なく継続できます。

 

7.家族信託を行うときの注意点

高齢化社会を反映して,専門家のみならず,様々なメディアにおいても相続対策についてその必要性が唱えられています。「家族信託」というのは,その親しみやすい名前からか,多くの方に浸透し,制度を利用したいというお話を受けることもあります。しかし,私の個人的な意見ですが,信託制度は相続対策,認知症対策,財産承継の一つの手段であるべきだと考えます。一見万能に見える信託制度ですが,上記のようにデメリットももちろんあります。ご本人の状況によっては,信託にこだわる余り,過分な費用を要する場合もあります。信託ありきではなく,みなさんの実情に合った相続対策を考える必要があると考えます。
また,信託は,相続関係に大きな影響を与えることが少なくありません。受託者となる親族の方の,信託制度への理解も不可欠です。後々の紛争防止の観点からも,親族の方々の理解の下に制度を利用する事をお勧めします。

 

8.家族信託を司法書士へ依頼する方法

信託は,これまで述べたその制度の性質や費用体系からお分かりの通り,ご本人と専門家,受託者の深い信頼関係によって成り立ちます。また,数ある相続対策,認知症対策の一つの手段として考えるべきだと思います。ひとつの手続きありきでなく,ご本人の状況を詳しく聞き取って,最適な手続きを提案してくれる司法書士に依頼することが重要だと思います。
また,信託制度の利用を考えていること,その際に要する費用が他の手続きの場合とどう違うのかを遠慮なく聞くべきです。その際には,財産状況が分かる資料等が必要になりますし,税理士の方の意見が必要になる場合もありますので,相談に行く前に確認した方がいいでしょう。

投稿者: 堀口泰一郎

司法書士ほりぐち法務事務所 司法書士 堀口 泰一郎 平成27年司法書士登録。 「身近な相談相手」「ワンストップの司法サービス」をスローガンに、 生前の相続対策、死後の相続対応を中心に年間200人以上の法律相談を行い、他士業と連携し、一人一人に最適な手続きを提案する。東京都大田区を中心に、無料相談会や小学校キャリア教育など公益活動を行う士業団体、一般社団法人おおた助っ人相談員。