平成27年1月1日以降、相続税の税率構造の見直し及び基礎控除が減額されたことによる相続税の増税が行われた一方で、贈与税は、高齢者の保有資産の現役世代への早期移転を促すために、直系卑属(20歳以上)への贈与に係る税率構造が緩和する特例が改正されました。
この改正により、今まで以上に生前贈与を活用した節税手段が有効になりました。
そこで今回は、不動産に着目した生前贈与についてご説明をします。

1.不動産の生前贈与にかかる費用は?税金の税率は?

1-1.生前贈与には贈与税がかかる

生前贈与とは、当事者(贈与者)の一方が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える契約ことをいいます。
贈与税は、その贈与によって財産を取得した人に対して課される税金です。ここでいう財産に    は不動産も含まれますので、不動産の生前贈与を受けた受贈者は贈与税が課税されます。

1-2.生前贈与にかかる税金の種類とは?

不動産の生前贈与には贈与税の他に登録免許税及び不動産取得税が課税されます。

(1)登録免許税

不動産を生前贈与した場合、法務局で所有権の移転登記の手続きを行いますが、移転登記には登録免許税が課税されます。

固定資産税評価額×2.0%

(2)不動産取得税

不動産を取得した人は、不動産取得税が課税されます。

固定資産税評価額×4.0%

なお、土地及び住宅は標準税率が3.0%(平成33年3月31日まで)に減額される特例があります。
さらに、宅地については課税標準が固定資産税評価額×1/2(平成33年3月31日まで)になる特例もあります。
その他取得の状況により減額の特例がありますので、不動産取得税を計算する際には専門家にご相談下さい。

 

2.暦年課税贈与と相続時精算課税贈与とは?

生前贈与には、暦年課税贈与と相続時精算課税贈与の2種類があります。

(1)暦年課税贈与

暦年課税贈与とは、受贈者一人につき年間110万円(基礎控除)まで贈与税が課税されません。110万円を超えた額について、一定の税率により計算した贈与税が課税されます。

(2)相続時精算課税贈与

相続時精算課税贈与とは、60歳以上の父母、祖父母等の直系尊属(贈与者)から20歳以上の子、孫等の直系卑属(受贈者)への贈与について累計2,500万円(特別控除額)まで贈与税は課税されません。2,500万円を超えた額について、一律20%の贈与税を納付(仮納付)しますが、相続時に相続財産とその贈与財産を合算して相続税の税率で精算します。
なお、この制度を選択した場合、その選択に係る贈与者からの贈与を受ける財産については、その年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することができません。

 

3.贈与税の税率の計算方法とは?

(1)暦年課税贈与

暦年課税贈与は、下記の算式に基づき計算されます。

(贈与税の課税価格-110万円(基礎控除))×速算表の税率-速算表の控除額

なお、平成27年1月1日以降、暦年課税贈与は『一般贈与』と『特例贈与』に分類されました。

特例贈与とは20歳以上の者(受贈者)が直系尊属(贈与者)から受ける贈与のことをいい、一般贈与とは特例贈与以外の贈与のことをいいます。

(2)相続時精算課税贈与

相続時精算課税贈与は、下記の算式に基づき計算されます。

(贈与税の課税価格-2,500万円(特別控除額※))×20%(一律)

※限度額は2,500万円になります。ただし、前年以前において既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額になります。

 

4.相続時精算課税贈与を活用した不動産の節税を図る方法とは?

相続時精算課税贈与を活用した不動産の一般的な節税方法を2つご紹介します。

(1)相続時精算課税贈与を活用した場合

相続時に、『相続財産』に『相続時精算課税贈与財産』を加算して相続税を計算しますが、その贈与財産は贈与時の価額で加算することとされ    ています。
例えば、贈与時は土地の評価額が1,000万円であったが、相続時はその土地の評価額が 3,000万円に値上がったとしても、相続税の計算では贈与時の評価額である1,000万円を加算で相続税して計算することになります。
したがって、将来、不動産の価値の上昇が見込まれている場合、上昇する前に相続時精算課税贈与を活用して不動産を贈与することは、有効な節税方法となります。

(2)利回りのよい収益不動産を所有している場合

賃料収入から諸経費等を控除しても手元の現預金が毎年増加していくケースはよくあります。このようなケースの場合、相続財産は年々増加することになります。
そこで、相続時精算課税贈与により収益不動産を贈与をすることで、将来にわたって増加する現預金(相続財産の増加)を抑制することができますので、利回りのよい収益不動産を相続時精算課税贈与することは、有効な節税方法となります。

 

5.不動産を生前贈与するために必要な手続きとは?

不動産を生前贈与するためには大きく分けて3つの流れがあります。

(1)贈与契約書の作成

生前贈与は、贈与者と受贈者で贈与契約書を作成して、書面で不動産を贈与した旨を残します。法律上、口頭による生前贈与も認められますが、特に不動産の生前贈与の場合は贈与契約書を作成することをお勧めします。

(2)不動産の名義変更手続き

不動産の名義変更をするためには、法務局で所有権の移転登記手続きが必要となります。提出書類が多いため、ここでは提出書類の詳細は省略しますが、移転登記の手続きが難しいと判断した場合には、司法書士に手続きを依頼することをお勧めします。

(3)贈与税の申告手続き

不動産の受贈者は、贈与を受けた年の翌年2月15日から3月15日までの間に贈与税の申告手続きと納税手続きが必要になります。なお、暦年課税贈与と相続時精算課税贈与では、贈与税の申告手続きの方法が異なりますので、これらの手続きが難しいと判断した場合には、税理士に手続きを依頼することをお勧めします。

 

6.不動産を生前贈与するメリットとデメリットはなにか?

6-1.メリット

(1)不動産の生前贈与のメリットは、生前に不動産を与えたい人に与えることができることです。
遺言書を作成しないで相続が発生した場合、相続人間で分割協議を行うため、被相続人の意図した人に不動産が移転できない可能性があるほか、遺言書を作成した場合でも、遺言書が無効になる可能性や争族になる可能性があります。
そのため、不動産を生前に渡したい人がいる場合、生前贈与は有効な手段といえます。

(2)前述したとおり、不動産に将来の値上がり益が見込まれる場合や利回りのよい収益不動産を所有している場合、将来の相続財産の増加を抑制する効果がありますので、相続税の節税手段として生前贈与は有効な手段といえます。

(3)暦年課税贈与の場合、毎年110万円の基礎控除があるため、5年かけて贈与した場合には一人当たり最大550万円まで贈与税が課税されない。

6-2.デメリット

(1)相続による不動産の移転と比較して、生前贈与による不動産の移転は登録免許税・不動産取得税が多く課税されます。

①登録免許税
生前贈与による不動産の移転は税率が2.0%であるのに対して、相続による不動産の移転は税率が0.4%と1/5になります。

②不動産取得税
生前贈与による不動産の移転は税率が4.0%又は3.0%であるのに対して、相続による不動産の移転は不動産取得税が課税されません。

以上のように、不動産の移転が贈与時か相続時かで、登録免許税及び不動産取得税は大きく異なります。

(2)不動産を生前贈与した場合、その不動産について相続時に小規模宅地等の特例制度を適用することができません。
なお、小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた土地又は事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合、評価額の80%又は50%を減額することができる特例です。したがって、小規模宅地等の特例が適用できる土地の生前贈与を検討している場合、贈与について慎重に検討する必要があります。

 

7.不動産を生前贈与するときの注意点

同じ不動産の移転でも、移転するタイミングにより各種税金の金額が異なる前述のとおりです。
したがって、実際に不動産の生前贈与を検討する場合には、贈与時だけの税金で比較検討するのではなく、
①贈与時の諸税金
②相続発生時までの各年の諸税金
③相続時の諸税金
をきちんと整理して、トータルで比較検討することをお勧めします。

投稿者: 相原仲一郎

税理士、相続診断士、事業承継スペシャリスト。 約15年間、相続・事業承継のコンサルティング業務及び相続税の申告業務を中心に活動。 多くの案件に関与してきた実績に基づき、「次世代に円滑な承継」をテーマとしてクライアントの承継問題を解決している。