ここ最近、相続において、信託を活用するという方法に注目が集まっています。

きっかけは、信託法の改正です。これにより、相続において、これまでは民法の規制に縛られ実現できなかったことが、信託法の改正によりやれる範囲が広がったのです。

信託を活用することで、これまでにできなかった相続税の節税や事業承継対策、これまで渡せなかった相手へ遺産を渡したり、遺産を一括ではなく少しづつ渡すということができるようなりました。

そこで、今回は相続における信託の活用方法を、事例を交えてご紹介させていただきます。

1.老人ホーム入居のため自宅を売却するときにかかる税金とは?

自宅を売却することによって利益が出た場合、その利益は譲渡所得として所得税の課税対象となり、不動産売却に伴う譲渡所得に対する課税は、他の所得と分離して行われます。

この譲渡所得は、土地や建物を売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。

取得費とは、売った土地や建物を買い入れたときの購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額をいい、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。

なお、土地や建物の取得費が分からないときや、実際の取得費が譲渡価額の5%よりも少ないときは、譲渡価額の5%を取得費とすることもできます。

また、譲渡費用とは、土地や建物を売るために支出した費用をいい、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用などが該当します。

 

2.居住用不動産か否かで税制上有利に。その判断基準とは?

所有している不動産が居住用不動産に該当する場合、マイホームを売ったときの特例(3,000万円の特別控除)や、マイホームを売ったときの軽減税率の特例を受けることが出来るため、税制上大きなメリットがあります。

居住用不動産に該当するか否かについて、居住の用に供しているかどうかの判定基準を示す国税庁の通達(租税特別措置法通達31の3-2)が設けられており、その通達には次のように規定されています。

~引用開始~

「『その居住の用に供している家屋』とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう。以下この項において同じ。)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。」

~引用終わり~

 また、この通達には、単身赴任をしているような場合でも、単身赴任が解消した場合に配偶者が居住のようにしている住宅で共に生活する予定である場合には、単身赴任者にとってもその住宅が居住に用に供している家屋に該当するとしていますが、一時的な目的で入居したと認められる家屋や、趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で有する家屋は居住用不動産に該当しないとしています。

 ただし、注意書として、譲渡した家屋に居住していた期間が短期間であっても、その入居目的が一時的な居住でない場合には、居住用資産に該当する旨書かれていることから、売却時点で生活の拠点として利用していたという事実があればその入居期間は関係ないという事になります。

 

3.居住用の自宅売却には、3000万円特別控除を適用することで節税できる

 通常の不動産の場合、譲渡所得の計算は、譲渡価額-(取得費+譲渡費用)で計算されますが、居住用不動産の場合、そこから3,000万円の控除が受けられます。

 後に実際の数値を入れて考察しますが、最大で約1,200万円も節税できることになります。

 

4.自宅売却に伴う3000万円の特別控除を適用するための要件

 特別控除の特例を受けるためには以下の要件全てに当てはまることと、一定の手続きが必要となります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

~引用開始~

(1) 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

(注) 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件全てに当てはまることが必要です。

イ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。

ロ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。

(2) 売った年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)。

(3) マイホームの買換えやマイホームの交換の特例若しくは、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。

(4) 売った家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

(5) 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年目の年の12月31日まで(注)に売ること。

(注) 東日本大震災により滅失した家屋の場合は、災害があった日から7年を経過する日の属する年の12月31日までとなります(「東日本大震災により被害を受けた場合等の税金の取扱いについて(個人の方を対象とした取扱い)【東日本大震災に関する税制上の追加措置について(所得税関係)】」をご覧ください。)。

(6) 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。

   特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

また、この特例を受けるためには、譲渡所得の内訳書及び売った居住用家屋やその敷地の登記事項証明書を添付して確定申告をする必要があります。

 なお、マイホームの売買契約日の前日においてそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合などには、戸籍の附票の写し、消除された戸籍の附票の写しその他これらに類する書類でそのマイホームを売った人がそのマイホームを居住の用に供していたことを明らかにするものの提出が必要となります。

~引用終わり~

 

5.自宅売却時に3000万円の特別控除を利用するために居住用の自宅と認められるためには?

 既に書きましたが、居住用不動産に該当するためには、売却時点で生活の拠点として利用していたという事実があればその入居期間は関係ないことになります。

 では、具体的にどのような場合が居住用資産に該当するのでしょうか??

 国税不服審判所の審判では、①家屋におけるガス及び水道の使用実績がなく、電気の使用量は極めて少ないこと、②家屋の窓ガラスが割れたまま放置され、複数の近隣住民が人の住める建物ではなかったと述べていること、③請求人が住民票上の住所をその家屋とは別の借家の所在地に置いていたことなどを理由に、家屋を真に居住の意思を持って、客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていたとは認められないと認定しています。

 このことから、その家屋が生活に最低限必要な程度の大きさ・設備を備えていることが必要なのはもちろんですが、実際にそこで生活していた痕跡があるのか否かについても具体的に検討する必要があるといえます。

 

6.自宅売却に伴う3000万円の特別控除が適用される時とされない時にかかる税金の違い

 土地や建物の譲渡所得は、その土地や建物を5年を超過して保有しているか否かによって、長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられ、長期譲渡所得は短期譲渡所得に比べて低い税率が適用されます。

 それぞれの税金の計算方法は以下の通りです。

(1)短期保有で特別控除前の譲渡所得が2,000万円の場合譲渡所得の計算は、譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除によって計算されますので、以下のような8つのパターンで金額がどのように変わるかを検証してみましょう。

  1. 特別控除なし
  2. 特別控除有り

(2)長期保有で特別控除前の譲渡所得が2,000万円の場合

  1. 特別控除なし
  2. 特別控除有り

(3)短期保有で特別控除前の譲渡所得が7,000万円の場合

  1. 特別控除なし
  2. 特別控除有り

(4)長期保有で特別控除前の譲渡所得が7,000万円の場合

  1. 特別控除なし
  2. 特別控除有り

上の表からもわかるように、控除前の譲渡所得金額が3,000万円以上あるときは、短期譲渡所得の場合1,188.9万円(3,000万円×39.63%)長期譲渡所得の場合609.45万円(3,000万円×20.315%)も税額に差が出ることになります。

 

7.自宅売却しようとする不動産を10年以上所有していると軽減税率が適用される

 自宅を10年超所有してから売却する場合、10年超所有軽減税率の特例という制度が受けられます。

この制度は、居住用の不動産を譲渡(売却)した場合、その不動産を10年超所有していたのであれば譲渡所得の税金の税率が低くなる特例です。

具体的には下記の表のように税率が適用されます。

この軽減税率の特例を受けるには、次の5つの要件全てに当てはまることと、一定の手続きが必要となります。

(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm)

 

~引用開始~

(1) 日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること。

   なお、以前に住んでいた家屋や敷地の場合には、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。

  また、これらの家屋が災害により滅失した場合には、その敷地を住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。 (注) 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の3つの要件全てに当てはまることが必要です。

イ その敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。

ロ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。

ハ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。

(2) 売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること。

(3) 売った年の前年及び前々年にこの特例を受けていないこと。

(4) 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていないこと。ただし、マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます。

(5) 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。

  特別の関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

また、この特例を受けるためには、譲渡所得の内訳書及び売った居住用家屋やその敷地の登記事項証明書を添付して確定申告をする必要があります。

 なお、マイホームの売買契約日の前日においてそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合などには、戸籍の附票の写し、消除された戸籍の附票の写しその他これらに類する書類でそのマイホームを売った人がそのマイホームを居住の用に供していたことを明らかにするものの提出が必要となります。

~引用終わり~

 

8.親が老人ホームに入居する前にしておくこととは?自宅は売却するべき?

<親の自宅の利用方法としては以下のことが想定できる>

各々ケースで有利不利があるので、個別の案件ごとに試算する必要があります。

有能な税理士に相談されたい

(1)売却する

  上記1~7を参照

(2)空き家として放置する

不動産からの収入は得られず、固定資産税やその他の維持管理費の支出だけがかさみます。

(3)子が親に代わって居住する、又は親と同居していた場合、引き続き居住する

使用貸借契約(家賃を払っていない契約)の場合には、適正家賃に相当する金額は、贈与税の対象になります。

(4)賃貸する

 ①不動産所得が発生します

  総収入金額-必要経費=不動産所得

  不動産所得がプラスの場合  所得税(総合課税)*1+住民税*2が課税されます。

   *1 所得税率は、5%~45%

   *2 住民税率は、10% 

  不動産所得がマイナス場合  給与所得や事業所得等と損益通算ができます

 ②相続時精算課税制度を利用して、親の生前に不動産を一定の金額まで子に贈与することに

より、不動産所得の帰属を子に変更できます。

  この場合、所得税率は累進税率なので、親と子の所得水準を考慮することが必要です。

 

<相続税対策が必要な場合の留意点>

(1)小規模宅地等の特例 

上記<親の自宅の利用方法としては以下のことが想定できる>ケースの(2)(3)(4)に該当する場合には、一定の条件を満たせば、相続税対策上、「小規模宅地等の特例」が適用できます。

①小規模宅地等の特例とは

個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。

 

②老人ホームで最期を迎え、家は空き家だった場合

特例の対象は、被相続人が居住用に使用していた宅地です。しかし、被相続人が亡くなる時まで老人ホームに入居していて自宅は空き家だった場合、「住居用に使っていた宅地」と言えるのでしょうか。このケースでは、被相続人が「相続開始の直前」までに要介護認定等を受け、老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等に入居していたなら、空き家でも住居用宅地に該当することになっています

 

③小規模宅地等の特例により評価減できる金額は、条件により異なります

被相続人等の事業の用に供されていた宅地等(小規模事業用宅地)の評価減は、条件により200㎡までの50%又は400㎡までの80%が減額できます。

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(小規模居住用宅地)の評価減は、特定居住用宅地等に該当すれば、330㎡までの80%が減額できます。

国税庁ホームページ

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

 

(2)建物を取壊し、その敷地の上にアパート・マンションを建設した場合

 ①上記(1)と同様に、条件を満たせば小規模事業用宅地の評価減ができます。

 その他の相続税節税メリットとして下記のものがあります。

 ②貸家建付け地の評価減(借地権割合×借家権30%)

 ③アパート・マンションの評価減(借家権30%)

 ④一般的に、アパート・マンションの時価 > アパート・マンションの相続財産評価額とな

  っています。

 借入資金によってアパート・マンションを建設した場合も節税効果が大きいので、相続税対

策として要検討項目です。  

 

投稿者: 浅山直希

経歴 2016年6月 一般社団法人西日本経営支援協会設立 2016年7月 税理士登録(登録番号133008) 2017年4月 経営革新等支援機関認定 2017年8月 島根大学嘱託講師就任